梅雨の鬱陶しさも終盤にさしかかり、もうすぐ始まる本格的な夏の気配。
毎年ちょうど七夕の頃を境に、予備校の中の空気が少し変わってきたように感じるのは、私の気のせいでしょうか。
予備校生に夏休みはない
予備校の中の空気が、今までとどこか違うのです。
何がどうと聞かれても説明に困るのですが、なんかほんのり明るくふわふわした空気!?
じめじめと薄暗い梅雨空を押しのけていく真夏の太陽の仕業なのか…?
いや、違う違う、そうじゃない。
顔…!
生徒の表情です。
柔らかな、穏やかな、なんだか妙にうれしそうな、…というか、
緩んだ、にやけた、どこか浮ついて緊張感を失った顔がちらほらと目につくのです。
これは…
夏休みを控えた子どもの顔です。
予備校生にあるまじき顔です。
だって、予備校生に夏休みはないのですから。
もちろん、毎日の受験勉強が夏期講習という次のフェイズに移っていくだけであることを、彼らはちゃんと知っています。
にもかかわらず、無自覚のうちにこの表情が滲んでくることがあるのです。
夏に潜む魔物
彼らがけしからんわけではありません。
20年足らずの人生のうち、おそらく幼稚園・小学校・中学校そして高校と、毎年毎年「もうすぐ楽しい夏休み!」というこの時期を繰り返してきたのです。
7月になると条件反射のように湧き上がる得も言われぬ高揚感が、身にしみついていても不思議ではないでしょう。
ただし、これこそ受験生にとっては、夏に潜む魔物です。
うかうかと飲み込まれてしまっては、ひと夏と言わず1年を棒に振ることにもなりかねません。
例えば、この魔物に心を許し、一足先に大学生になって帰省してきた友人との交遊を優先させてしまった者がいました。
おそらく、彼は久しぶりの再会と友人から聞かされる魅力的な大学生活の話に刺激を受け、それが心のリフレッシュと新たなモチベーションにつながると自分に言い聞かせていたのでしょう。
もしかしたら、受験を制する前に、根拠もなく大学生に一歩近づいたと錯覚してしまったかもしれません。
やがて友人は大学に帰り、夏が終わって、彼は何の保証もない浪人生であるという現実に戻ります。
楽しかった夏は、人一倍淋しい秋へと移り変わっていくのです。
夏を制する
彼の失敗は、魔物に飲み込まれ自分を見失ったことです。
予備校での受験勉強のペースにようやく慣れ、単調にも思える生活スタイルが身に付き始めた矢先、彼を誘惑したのは、他でもない彼自身の心の奥底に巣くっていた「夏が来る!」という高揚感でした。
夏休みのない予備校生にとって、この魔物は面と向かって戦うべき敵ですらなかったはずです。
こんな魔物に気づかず、スルーできてしまえば問題はなかったのです。
何事もなくこの時期をやり過ごすことが、夏を制する秘策だったのではないでしょうか。
では、具体的にどうすればよかったのか?
実は、とても簡単なことです。
敢えて、何も変えない!
いつもの時間に起きて、朝食を摂って、予備校でいつも通りに授業や自習をこなして、決まった時間に帰宅、就寝…
生活のルーティンを崩さず、淡々と一日を過ごすことに心を砕くのは、つまらないことでしょうか?
いいえ、意志なくしてはできないことです。

これこそ、夏を制する!と決意した受験生が、夏に潜む魔物をやり過ごす秘策にほかなりません。
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