浪人生の本分は受験勉強
予備校に通う浪人生たちは、受験勉強という一点を最優先にして毎日を過ごしています。
特に、親元を離れ寮生活を送る者たちにとっては、寮と学校との往復・食事・入浴・睡眠に設定されている時間と、授業や自習の合間の休憩時間を除いて、ほぼ全てが学習に充てるべき時間となりました。
青春を捧げた部活動も、スマホやゲームに没頭したり友人関係を楽しんだりした遊びも、家族の一員として手伝う家業・家事でさえも、彼らの生活からは締め出されてしまいました。
家族の理解と支援によって許されたこの環境を享受し最大限に生かすことが、今の彼らの義務とも言えます。
さぞかし、いろんなことを我慢していることでしょう。
真面目に頑張ってるご褒美がもらえるとしたら、今何が欲しい? 何がしたい?
ある寮生に尋ねた時の答えが、少し意外で驚きました。
畳の上で昼寝がしたい!
もう、3か月も畳に触ってないって、生まれて初めてなんやけど。
あー、大の字に寝っ転がりてぇ。
なるほど、畳も昼寝も、今の寮生活からは切り離されたものです。
「遊びに行きたい」でもなく「ステーキ食べたい」でも「彼女欲しい」でもなく、彼の飢えが案外つつましいものだったので、かえって身につまされてしまいました。
優先順位の必要性
体はひとつ、1日は24時間しかないのです。
だから、物事に優先順位をつけて取り組むのはいたって合理的なことです。
優先しなければならない重要事項があるなら、不本意な思いをぬぐいきれなくても、ある部分を我慢し切り捨てていかざるを得なくなるのも当然です。
むしろ、取捨選択、その決断を潔くできることが大切なのです。
我慢し切り捨てるとは言っても、それは決して無意味なものだからではなく、あくまでもその時点での重大性の度合いによるもの。
だから、それが価値あるものであるならば、全てを永久に手放すのではなく、きっといつかどこかで取り戻せばよいのです。
浪人生には、「合格」という何ものにも代えがたい最優先課題があり、その解決には本人の取り組みばかりではなく、周囲の人間をも巻き込んだ、協力や負担という前提が存在しています。
だからこそ、彼らには常に意識していてほしい。
自分の一番求めているものが何で、そのために今何を我慢し切り捨てようとしているのかを!
潔い取捨選択が本気の証
勇気をもって自らが優先順位をつけた結果の取捨選択、それこそが本気の証です。
さて、くだんの寮生ですが…
彼は結局、入学以来一時帰省が認められるまでの5か月の間、畳に恋い焦がれて過ごしました。
自宅でのリフレッシュ期間を終え、再び寮に戻って来た時には、思う存分畳での昼寝を満喫してきたようで
これで、あと半年なんとか頑張れる!
と、頼もしいセリフを聞かせてくれました。
とんずらしないで、ちゃんと戻って来ただけで
上等だよ(笑)
もちろん、私にはわかります。
彼を元気にしてくれたのは、畳だけではなかったーーー
お母さんの手料理やお父さんの激励、友達や恩師からの生の応援、過ごし慣れた自分の部屋やかわいがっていたペット・・・
彼がこの5か月間、直に触れることを諦め我慢してきたものたちを、一瞬でも取り戻すことができたのですから。
離れて初めてその価値の大きさに気づいたことでしょう。
そして、残り半年、改めてそれらを封印して、最優先する受験勉強へと彼は戻ってきました。
もう、彼の本気を疑う理由はありません。
浪人生にとって心身ともに本当に辛いのはここからですが、彼が本気ならば、迷いなく強い気持ちで耐え抜いていけると信じます。
事実、彼が私たちを、そして彼自身を裏切ることはありませんでした。
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